Pure-Nを発表
この書体は『NAX』の前に作成したもので、『NAX』の原形にもなっている。特にカタカナはかなりの部分が同じ処理になっている。さらに前に作成したものが『Pure-S』だが、それはいきなり現在に通じるものではないのでそれをもうすこし現状に近づけるアレンジをしたものである。アルファベットは『ヘルべチカ』についで私が敬愛するフォントの『アバンギャルド』である。それにインスパイアされて和文もジオメトリックではあるがやさしい書体として考えたものである。
『アバンギャルド』は『フーツラ』と骨格的に似てはいるが、古来からの歴史をあまり感じさせない形になっている。その最たる理由はアメリカで生まれたものであることに起因するのではないかと思っている。『アバンギャルド』はハーブ・ルバーリンによって1960年代に「アバンギャルド」という雑誌に発表された。その前に「エロス」「ファクト」を出版したが、名前の通りの内容でいずれも短期間で廃刊に追い込まれた後だった。その後1970年に「ITC」を立ち上げ、発売した。さらにその後U&Ic誌を立ち上げタイポグラフィーの発表の場とした。私も「ITC」には「インスタント・レタリング」で随分お世話になった。『フーツラ』と似て非なる部分はヨーロッパの歴史から解き放たれた所にあるのではないだろうか。そこが私の気に入ったところでもある。『Pure-N』の和文も、この束縛されないところでのジオメトリックではあるが、ナチュラルでニュートラルでやさしさがあり、飛びすぎない自制心を感じさせるところだと勝手に思っている。つまりそういう書体を作りたかったということである。その昔、トヨタにスターレットという車があった。そのCMで今でも覚えているのは、「カッ飛び・スターレット」というキャッチコピーが流れて、「カッ飛び」という言葉はいかにもきついイメージの言葉なのに、(たぶん熊倉一雄さんの)ものすごくやさしくゆったりした口調で流れたことである。『アバンギャルド』もまさにそのように私には響いてきた。けっしてキュビズムなどに代表されるようなわからない前衛的なアバンギャルドではないのである。
2017年にはできていたが、先に述べたようにすぐには受け入れられないと思い、『NAX』へとすすんだ。Thin、Light、Regular、Medium の4種類だけだったが、今回Boldを加えて5ウェイトのファミリーとした。ひらがな、カタカナ、アルファベット、数字、一部の記号・約物、教育漢字1026+α(約190字)が入っています。