NAXバージョン2.0を発表

  週の11/13日の朝、外は真っ白だった。それから連日マイナスの日が続いている。いきなり冬になり、年々早くなっているような気がする。

 随分と時間が掛ってしまった。昨年の9月頃にはできると思っていたが、そう簡単には進まないことを思い知った。できてみるとたったの4枚に集約されている。昨年の年末には新型コロナに感染し、年が明けてから1月には妻が右手首を骨折したので、ほぼ5カ月は全く何も出来なかった。やっと4月に最後の文字が終わった。その文字が「死」と「残」だった。縁起でもないと思ったが、その後見直し作業に入ったらまだ20字以上も漏れていることがわかった。さらにOT Editへの移動作業に入って一文字ずつチェックすることになり、そこでまた処理のミスや、間違いや、ルール通りでない文字、気になる文字がでてくる。途中の見直し時にダブって作成してしまったものもあり、整理のしかたが悪いことに気づく。7ファミリーあるので、約8000文字の作業である。やっていても嫌になることも度々である。さらに教育漢字表で試打ちをしたらブランクになった文字が80字以上もあるではないか。作成済みになっていた文字が実際には作業していなかったり、私の勘違いでこんな漢字を小学校で習うはずがないと思い込んでいたりと、さらに思い知ることになった。私が小学生だった頃の当初の881字からは145字も増えているがその意図は都道府県名以外はこれを決めてきた委員達の保守的な考えが色濃く読み取れる。

 当初は細いTHINほど簡単で、太いBLACKのほうがバランスのとりかたや太さの強弱が難しいと思っていたが、できてみると細いTHINのほうがバランスの悪い文字が多い。特に左右のバランスが太い文字と較べおかしいことがわかる。いまさら直しようがないのでそのままのものもある。作業時には50mm枠で作成している。ひらがなとカタカナは100㎜枠だった。上下のバランスに関してもモニター上では拡大作業をしているので、感じなかったものが小ポイントになるとどうしても気になるものが出てくる。これはかなり修正したがしきれていないものもある。これらは線の端末の垂直、水平処理に起因しているものが多い。線は基本的にかぶせを避ける方針だが、すべてがそのようにはいかない。斜め切りだとかぶせやだぶりがあることで判読できるものが多いが、画数が多いものは処理に困るものが多い。また、イラストレーターからOT Editへの移動作業が大変だった。いくらか進んできたところでメニューから新たな発見をし、多少工程を減らすことができるようになった。今回、漢字の見直し作業で「内はね」のカーブを少し大きくして、柔らかさとなめらかさを出すことにした。これらの移動作業中に、移した文字がことごとく直っていないばかりか思わぬカーブになっていることに気が付いた。原因をさぐったがなかなかわからない。ためしに少し大きくした文字で移動したら多少変化している。思考錯誤を繰り返したらOT Editでは1000×1000のサイズになっている。イラストレーターではサイズを変えても線に変化がないので、てっきり同じベジェ曲線で移動していると思い込んでいた。イラストレーターでは20㎜枠にしたもので一覧表として整理している。OT Editの以前のバージョンでは移動しペーストするのに1個一個サイズと位置合わせをしていたのが、しなくてもぴったりフィットしてくれるようになったので、改良されたんだと安心して喜んでいた。ところが結局はイラストレーターで枠サイズを1000×1000㎜サイズにしてから移動しないと微妙にずれたり、曲線が別なものになってしまっていることに気が付いた。そのためイラストレーターでの5000倍にする拡大工程が増えた。7ファミリーあるのだが、横並びだとイラストレーターの作業スペースが5775mm位しかないのでちょっとずれるとはみ出てしまう。そのために2行にしなければならない。でもこれで問題なく移動作業ができるようになった。移動後にフレームを消去し、上書きをする。表示ですべてのファミリーを同期するというコマンドを発見したので「THIN」だけで文字を検索すれば他のファミリーでの作業が省かれるので、格段に早くできるようになった。ここまでは7ファミリー全部で順調な場合は3分もあればできるようになったのだが、連続では3~5文字位がいいところである。それ以上は頭が持たないので、必ず休憩することになる。おかしいところを発見するとさらに時間が掛る。休憩が1時間以上や時には2∼3日になることもしばしばである。

 私の目標は年間250日、1日3文字である。計算上では1年半もあれば1026字はできると思っていた。3年以上も掛ったのは、1年半前までは事務所としての仕事をこなしながらだったことや、予期せぬ出来事に翻弄されたことである。だからこそ残りの人生との時間の戦いであることをあらためて実感できる。その割にあまり焦燥感がない。じっくり取り組むしか方法がないと岡目八目になっている自分がいる。なにしろ5年以上も同じ感覚を維持することは至難の技である。特に漢字の作業に入ってからでも3年以上掛っている。初期に作成した文字の硬さが気になってくる。特に「はね」については相当数修正した。なんどやっても気になるエレメントは「糸偏」「行人偏」「さんずい」「はね」「まげあし」「貝のあし部」などである。一番悩ましいのは「八」の端末処理を横で切るか下で切るかの処理だ。基本的には横切りの垂直端末に統一したいのだが、縦に画数の多いものではどうしても難しい。この期に及んでどうしようもないと投げ出したくなる時もある。初心を貫くことは至難の業である。モチベーションを保つことは最も大事だが、いつのまにか気力が失せていることもある。

 漢字が一通り終わって、以前から気になっていたものの修正をした。ひらがなでは、「も」、カタカナでは一部の濁点位置の見直し、アルファベットでは、ディセンダー・ラインを少し下げることで「g,j,p.q,y」を、数字では「9」を変えた。基本はこのフォントをつくるきっかけとなった「ヘルベチカ」とあまりにかけ離れていると思えたからである。特に「g」と「9」は当初のものと違う。「NAX」では「G,J,Q,R,a,d,g,l,q,1,9」が「ヘルベチカ」とは違っている。これは私なりのおもいがあるためである。しかし「g」と「9」はやはり、この範囲をこえていると判断した。特に「g」は当初、ディセンダー・ラインを下げすぎると日本語としての行間も広がりすぎると思い、浅くする方針のもとで断念した経緯があった。アルファベット小文字のスペーシングは全て見直し、サイドベアリング値を変更した。本来はカーニングも設定すべきだろうが、その組み合わせの多さで諦めた。そのほかにもウェイトの配置ミスに気付かずに3年も過ぎた箇所も数箇所あった。今回、見直しには随分時間をかけたつもりだが、なにしろ一人の作業では発見できないところもある。修正作業で当初のものの中にバージョン1.0のチェックミスが残っているものをいくつか発見し、できる限り修正した。相当大きくして見てはじめてわかるものが多い。まだあるかと思うがご指摘ををいただければ幸いである。

 「ヘルベチカと一緒に組める日本語が欲しい」この一念で進めてきた作業だ。受け取る感覚は人それぞれだと思うが私なりに満足している。失われた日本の50年はそれなりに取り戻せたと思っている。以前(2022/3/5)にも書いたが、今回の教育漢字1026字で日常使いの65~75%程度の表現はできると思う。常用漢字の残り1110文字で96%ということなのでここまではがんばりたいと思っている。目標は2年。なお、教育漢字以外にも191字入っているが、この基準に他意はなく私個人の都合によるものである。政令指定都市、県庁所在地は入っている。バージョン2.0は価格に変更なくアップグレード、ダウンロードできますので、ぜひご使用になってください。