形状をつくるセオリーとそれからの離脱-2

形状をつくるセオリーとそれからの離脱-2

 NAXの漢字の基本方針について)

漢字についてもかなと基本方針は同じである。それ以外に上ラインと下ラインの統一をなるべく少ないモジュールに絞った。原則は上が4種、下が3種類である。例えば「二」「三」「四」などは、「国」や「日」と同じ高さにすると不自然さがでるので、少し天地をを縮める必要がある。でもなるべく差が少ないように処理した。字面も目いっぱい大きくしてある。これは最近のフォント業界ではたぶん評価されない傾向だ。

 漢字特有の処理に関していくつか述べる。●ラインの横・縦切りはNAXの基本方針である。●画数の増画処理はおこなわない。●重なりや食い込みはできる限り避ける。●Bold,Heavy,Blackではラインの太さと同時にラインの隙間の統一も行う。●形状の基本は教科書体に準ずる。などを基本方針としている。

 ラインの横・縦切りは「女」に示してある。これを徹底するといくつか問題が起こる。まず少ない画数では文字サイズが大きく見えたり、逆に込み入った文字では小さく見えたり、一部を省略したり細くして収める必要がでてくる。「機」の内部の端部処理では少し無理のあるところもある。重なりは基本的になるべく避ける方針なので、特に画数が多くなると苦しい状態になる。

 『増画』に関しては日本でゴシック体を最初に作成したときに施されたもので、中国には無い。「長」の字で説明すると左下出っぱりは筆順からいっても不要なものだが、この空きスペースを埋めたかったのだと思う。バランスを考え筆の折り返しを強調する考えから採用されたのではないかと思う。「山」の左下もそうである。この出っぱりも画数表現からいうと不要である。左右のバランスから生まれてのだろう。これらは「口」「時」「母」の左下など多くの文字に採用されている。このような処理は見慣れてしまっているので無いと不自然に感じる人も多いのではないかと思うが、「九」や「占」などでは特にこの空きスペースを埋めるための装飾はしていない。元々そういう字だからだ。「占」の中央の縦線はやや左よりにしてはいるが。これらは本来そのような文字だとして見れば不自然さは解消されてくる。

 次に『点』の処理だが、教科書体では、「語」「裕」などの言偏やネ(示)偏、衣偏の上は点であるが、それを点のまま処理したり、横線にしたり、縦線にしたりと処理方法にばらつきがある。私が小学校のころの言偏は縦だった。最近のものは『点』になっている。明朝体やゴシック体になったものはもれなく横線になっている。「令」や「今」の内部の『点』は横線が多い。これは縦線にしたり点処理にしてみたが違和感を感じるので、横線にした。また教科書体でみると下部分が『マ』と『フ』になっていて手書きの筆文字では本来このような形だったと思うが、明朝体やゴシック体とも別の処理となっている。

 「九」の右下の処理をマゲハネ、「式」はソリハネというそうだが、大きく処理できる「化」はマゲハネにしたが、「九」では太くなるにつれハネアゲ部を細くした。「仇」内の「九」部分はHeavyBlackではハネアゲずに横流しに処理した。このようにしないと太さを強調した文字に見えないからである。「式」のソリハネ部もハネアゲを少なくした。

 「小」の字の「八」部は両サイドに広がるのと右側は長い点処理のものがあり、反り方が違う。これはカタカナのときにも悩んだが、NAXの漢字ではカタカナとあえて区別できるように八と同じように両広がりで縦切りとした。

 「吉」に字は上部が「士」と「土」の2種類あり「士」のほうが「きち」、「土」のほうが「よし」だとずっと思い込んでいた。今回作成にあたって調べると、一種類しかなくどちらでも良いのだそうだ。でもほとんどが「士」の処理になっている。もっと画数の多い字の「樹」では「士」になっている。

 まだまだ細かい表現の違いがあるものもあるが、長村玄 著 『外字管理と文字同定』と、大熊肇 著『文字の骨組み』はおおいに参考にさせていただいた。デザイン上の違いとして許されているものが数多く存在していることがわかった。私は基本的に外字は不要と思っているので、これ以上漢字が増えることは反対である。何度も言うが漢字文化圏でも日本より実際の使用数は少ないのだ。まだ作成していないが葛飾区の「葛」は下部を「人」にしようか「ヒ」にしようかはいずれその時がきたら決めるつもりだ。苗字の「斎藤」も「斉藤」だけにしようか、「髙田」も「高田」だけにしようかまだ決めてはいないが、多くの異種字体が存在する必要が無いと私は思っている。韓国の苗字は286種類だそうだ。中国でも6000種類位。日本は13万種類、一説では30万種類あるとも。最近読んだ大栗博司氏の『探求する精神 職業としての基礎科学』にも娘の英語の読むスピードはものすごく速いとあった。日本語の特に漢字の多さは表現のスピードからも勉強の負担になっていることはあきらかである。もし私がそのような旧字体や通常存在しないような漢字の苗字だったら過去や先祖は気にしないで新字体や常用漢字内の漢字にする。もっと厄介なのは地名だ。個人で決められるものではないので困ってしまう。その他に、小学生時代から使っているボロボロの小学館『新選漢和辞典』と2008年版のシャープの『電子辞書』は手放せない。