PCのヒニク

PCのヒニク

 毎日のようにPCに向かうと面白いことを感じる。

 一つはPCの普及が多くの変革をもたらしたことと、同時に退行させてしまったことの功罪が表裏一体だということ。もう一つはPCはタイムマシンだということだ。

 まず変革についてはほとんどの人に異論のないことであろうと思う。より便利により多くの人々に利益をもたらしたと言える。それにともなったデジタル技術の発達もあり、特にデジカメやプリンター等のデジタルデバイスがより多くの恩恵を与えている。ソフト面では写真や文章の処理、表作りや計算、家計簿、住所禄、プレゼンの作成……数限りない。さらにはそれぞれの専門分野での活用は目をみはるものがある。

 その一方で退行させてしまったことの代表は、漢字に関して特に感じる。私は漢字が苦手でPCが普及する前は漢字廃止やローマ字化を真剣に考えていた。今でも読めればある程度以上は書けなくてもよいと本当に思っている。初期の日本語処理はまだまだ頼りなく今のように漢字の処理体系が無かったので、そんなに期待もしていなかった。ところがである。1990年代のPCは半年ごとに倍々に処理速度もメモリーも進化していき、今では当時のワークステーションどころかスーパーコンピューターを超える能力のものさえ家庭にある。そのことにより、漢字の処理能力も各段に進化し、いまではAdobe-Japan1-6レベルが搭載されている。Adobe-Japan1-6とはアドビシステムズ社が日本語DTP用に開発した文字集合規格で、23058字ある。書体よっては1-3で9354字、1-4で15444字のものまでのものもある。ここまででも十分すぎる状態である。これだけのものを体系化し処理できるということは、通常目にすることのない漢字を呼び出すことができるということになってしまった。残念ながら、通常の生活には無用の長物である。呼び出すことすら難しい。読みで入力してもどれが正しい漢字か判別できない。何故このようになったかというと、一番の問題は地名や人名に関しての異字体が多いためである。特に人名では個人の尊重でこれらを一掃することができない。昔、役場に出生届を出したときにまだ手書き時代だったため、間違えて記入したり、異字体が多くできてしまった経緯もある。また旧字体もある。これを現在のPCに能力があるからといって簡単に字数を増やすことが本当に良いのだろうか。歴史書の論文や辞書ならいざしらず、通常の生活では全く必要ない。JIS第一水準の2965字でも私などは見たことの無い漢字すらある。常用漢字2136字で十分なくらいだ。1981年の調査では当時の常用漢字1945字で96%カバーできているという結果がある。又、『筆談で覚える中国語』の著者であり、中国語講師の、陳氷雅氏によると「漢字大国といわれる中国といえども、1万字もなかった。しかも、使用頻度で見ると、最常用漢字は560字、常用漢字807字、準常用漢字は1033字の合計2400字。じつに99%をカバーしていた。」とある。さらに、実際に2400字ほどを日本の常用漢字に対して統計をとってみたところ、簡略化されているのは800字あった。日本語と同じ漢字は1600字もあり全体の3分の2を占めていた。」とある。このような合理的な考え方のできる中国は見習うべき点があると思う。しかし、日本では反対を恐れるのか、誰も声に出していう者がいない。最近のクイズ番組では誰も知らないような漢字を競うものさえある。皆面白がって見ているだけで自分のこととしては考えないのだろう。キラキラネームと呼ばれるものも流行っていて漢字に英文のカナを付けたものまであるそうである。人権の尊重はよいがなんでも自由にしてよいわけが無い。使用規制を感じる。100年も経ずに余程の有名人でない限り元の漢字で表現する必要はなくなるだろう。北海道に行って思うことがある。地名はカタカナで表示されている場合も多い。例えば「サロマ湖」漢字では「佐呂間湖」と書くが看板などではカタカナ表示が結構ある。元々アイヌ語に漢字を無理矢理当てたものが多い地方だけにこのほうが観光的にもしっくりきて、外国ではないが旅行気分も味わえるというものだ。だから地名も代替漢字やカタカナにしたってよいと私は思う。きっと多くの反対にあい実現できることがないだろうな。あまりに進化したPCの普及でますますこの議論ができにくい状況になってしまった。これがPCの負の効果である。

 もう一つ、PCはタイムマシンだということ。

 これは誰もが知らず知らずに経験しているはずだ。ワープロなどの文字入力のときにやるコピー&ペーストだ。私はこれでは実感したことはないのだが、CADソフトでは実感できることが多い。特に3Dソフトでは、ある部分を替えたい時に私の使っている「ライノセラス」では少しづつ工程ごとにセーブしておく。そこに戻ってあるパーツやまだ加工をしていない原形をもってきてペーストしてやり直すことができる。これは過去に行ってまだ健全な臓器を取り出し現在の自分に移植するのと全く同じではないか。ときには未来(進めたが中止した工程)へ行ってそれをすることもある。また過去の別案の一部や全く別の作業で使った部品を持ってくることもできる。過去のデータに行ってそこで必要な加工をして運んできてから、過去は何事もなかったかのように元通りにしておくこともできる。「すごい!これはタイムマシンだ!」とよく思う。感激してしまう。これは3Dでは加工作業が多いため、やり直すことが大変なことがあるから実感できるのかもしれない。でも時々夢中になり、セーブするのを忘れる時もあり、そういう時にかぎって中間の過去がなかったり、寝ぼけて消してしまったりとかもある。3時間くらい掛けた作業が飛んだときのショックは大きい。ソフトによっては自動でセーブしたり、どの箇所でもそこの一部を加工前に戻したり長さを変えたりしていじれるものもある。でも私は今の「ライノセラス」が好きだ。これを応用するとバーチャルタイムマシーンができるかもしれないと思ってしまう。時代ごとの歴史偏でAIを利用し学習すると、あるStimulusでどんなResponseが出てくるかを楽しむもので、例えば織田信長が現代で何をするのかなどのシュミレーションゲームも可能かもしれない。