時計を作った

時計を作った。

 某M診療所の庭の木を切った時に預かった木から作ったものである。呼んでくれたYさんはまな板でも作ってくれないかということだった。薪割り現場で見たときに完成形はすぐに思い浮かんだ。以前にも書いたことがあるが私は仕事でも最初の出会いとインスピレーションでほとんど決まる。そのきっかけが悪かったり、会えなかったり、無いとロクな仕事ができない。進行時間ばかり掛かり、悩んでも良い結果が出ない。頼んだ人の「思い」がわからないと悩むのは当然だ。条件がしっかり決まっているものはまだ良い。依頼者の思いや気持ちが伝わり理解できると後は結果に向かって突き進むだけだ。そうでないと本当に苦労する。それがこの木の場合は薪として割られ、私と出会ったときから運命は決まった。しかし、私の都合と乾燥に2年近く時間が掛かってしまった。まな板は端面処理をしたが、半分以上の木が割れてしまい、数枚しかできなかった。

 我ながら出来栄えには満足している。文字板の数字はヘルべチカにしようかと迷ったがNAX-Bにした。6と9はほとんどの書体で180°転回したカタチになっている。これも以前に書いたが、私のこだわりで反転したり、鏡面字に間違えるのが好きになれない。だからNAXはあえて6と9は変えてある。9は少し扁平気味だが、木のテクスチャー自体がかなり凸凹しているので、正面からでないと正しく見ることができない。このようにいろんな角度から変化が見られるのがこの木の良いところだ。木目だけでない面白さがある。斑の一部も見える。根っこ近くのねじれ曲がった勢いがそのまま出ている。割ることで現れた面白さだ。せっかくなら持ち主のところに戻してあげるのが一番だと思っていた。

 これをM診療所においてくださることになった。いづれ近いうちに行くこともあるかもしれない。具合が悪くてもその時に少しだけご対面を楽しめるかもしれない。

 Yさんが写真を送ってくれた。(ちなみに上の絵は知り合いの田村拓堂さんの木絵だ)