フォーマルについて2
フォーマル性についてもう少し述べたい。写真は私のよく行く富士見パノラマスキー場のゴンドラ内の注意書きである。新型コロナ発生以降、今年はグループごとに乗せる方針になった。一人客も結構多いので10時台は長い行列ができてしまう。そのゴンドラ内に貼られた注意書きが赤色のシールである。この文字は創英角ポップ体といってウインドウズに標準で搭載されている。水元恵子氏がデザインしたもので、優れたバランスの手書き風文字である。漢字まで揃っていて太い力強さとまさにポップな雰囲気なのだが、ウインドウズに標準搭載されていることで皆が気安く使ってしまっている。日用品等のチラシなどにはもってこいだと思うが、これを会社案内やシリアスなプレゼンなどにも平気で使用する人もいる。通常の角ゴシック体では標準搭載のフォントではここまで太いものがないので、つい気軽に使用するのだと思う。社内製作をする場合、購入してまで目的や内容に合わせたフォントを選ぶことが無いからだと思う。フォントには様々なイメージがあることをほとんどの人が意識していない証拠でもある。
ところで写真にもどってみると、この注意書きはそれなりに効果はあると思う。もしもっと細い文字や、明朝体、丸ゴシックにいたっては注意喚起力の意味では弱いだろう。みんなに気安く見てもらい守ってもらう目的からは悪い選択ではないかもしれない。ただ強制力には欠けるかもしれない。またこの写真でゴンドラの外に写っているのは、電車などにもよくある注意書きで極端に短いものでは「指ツメ注意!」というものまである内容のものだ。この文字は「新ゴ」というフォントである。私の好きな「ゴナ」の偽物フォントである。こんなに堂々というとモリサワからクレームがでるかもしれないが、私も大枚はたいてその昔購入した。ついでに「タカハンド」という手書き風ゴシック体や「ナール」風の丸ゴシックの「ジュン」,「リュウミン」も買った。まだ創英角ポップ体がバンドルされていなかったマックの時代だ。「タカハンド」も味のあるすぐれた書体だ。作者は高原真一氏で札幌在住の方だ。和田誠氏の絵によく使われピッタリだった。(※私の勉強認識不足で和田誠氏の文字は和田さん自身が作成したオリジナルでした)手書き風文字のなかでは一級品だと思う。私がそんなに購入したのは写研がデジタル化しなかったのが最大の原因である。悪いのは写研のほうかもしれない。また話がそれたが、この注意書きがもし別な書体であったなら、ゴシック体のほうがこのような注意書きには向いていると思っているのだが、例えば普通の従来型の角ゴシック体ならば威厳が先にきて「フン」と流してしまいそうな気がする。若くてルールを守ることに興味のない人はとくにそうではないだろうか。そういう意味でこの「新ゴ」は優しすぎず、厳し過ぎず、丁寧な喚起を呼ぶためにはもっとも適していると思う。その下の英文は「ヘルべチカ」である。並べて使用するのには自然な選択だろう。英語圏の特にアメリカの注意書きは「ヘルべチカ」が多い。No-smokingなどだ。この「ヘルべチカ」に対応する日本語フォントは従来「ゴナ」、「新ゴ」しか無かった。最近は「ニタラゴ」も目にするようになった。はっきり言ってこれ以外のフォントには私は興味がない。
もし新幹線の中の注意書きが手書きで書いてあったなら違和感をおぼえるだろう。そして守らないだろう。本日のみの急なお知らせならいざしらず、恒常的なお知らせや公共のものならばやはり従来なら「ゴナ」、「新ゴ」のほうが良いと私は思う。少し凛としていて、それでも堅苦しくなく、威厳や儀礼的なイメージを感じさせないもの。それが私の言いたいフォーマルである。