NAX-ひらがなについて
ひらがなのパターン分類マトリックス:何度も作り変えた。けっしてこれが確定したまとめかたではないのだが、おおむね中央から右側は右に流れて筆が止まる字、左側は左に流れて止まるものだ。例外も入っているがそれはエレメントの共通性からまとめたためである。横ラインの共通化、まるのカーブと止め方、終筆部をまるめて止めるものなどで分類してある。こうして関連性のあるエレメントをまとめることでシステム化を計るベースになっている。隣り合っている文字が必ずしも関連しているといえないところもある。きっと今までも様々な方が考えていたと思う。
特長の1:ラインの水平化がある。半分より上部側の横線は原則水平にしてモジュールに収めるという基本方針による。水平化のモジュールはひらがなで9本、カタカナは8本(下のラインを加えれば9本)ある。その中で『や、つ、て』の最初の横線は右上がりで始まるのが一般的である。『う』の下側の始まりも同じだが、あえて水平にしてある。厳密にいえば『ふ、ら、う、え、ひ、む、こ、た、な』を除く全ての横線は通常は皆、若干右上がり始まりになっている。それ以外は右下がりだが理由は次に続くエレメントや続き字に書いたり、点としての存在からきている。特に『や、つ、て、う』は右上がりにカーブが続いているほうが柔らかなイメージも出てきれいであるが、あえて水平に割り切っている。これは基本方針である水平線を基本モジュールに収めるという考えに基づいている。このことがいづれもっと簡素化した書体へと進み、それに違和感を覚えないことへとつながると信じているからである。実は「NAX」の前に「PURE]という書体を作ってある。しかしもっとジオメトリックであるので文章にしたときに自分でも違和感を覚えるくらいである。そのことからこの「NAX」を先に発表し、できれば使用例が少しでも増えて違和感を少なくしたいという期待を込めている。「PURE」の前にさらにジオメトリックな書体も何度もトライしてある。日本語としては可読性に無理があると感じ、なかなか納得するレベルになっていない。この点に関していうとカタカナにはこの簡素化の歴史がひらがなよりもあり、この「NAX」でも比較的楽に作成できた。なぜカタカナは簡素化できているのかといえば、戦後多くの商品名でこの作業が行われてきたことによると思う。特に薬品の商品名ロゴが果たした役割は大きい。『や、つ、て、う』以外にも『ひ、む』も通常は水平で終わらないがあえてこのようにラインを揃えた。もう一つ、『み』も横線を水平にしてある。この文字の終筆部は『な、は、ほ、ま、よ』と同じで、右下に流れるのが自然だが、ほぼセンターにあり、半分より上部側の横線は原則水平にするという基本方針によっている。また『た』の『こ』部分は左側とラインを揃えてふところを大きくとることで明るさがでていると思う。『た』と『な』の左側の下に伸びる線は通常『な』のほうが短い。しかしエレメントの共通化も大きな目標なので違和感のない程度に揃えた。元になった漢字『太』と『奈』も同じエレメントから来るものなので無理な考え方ではないと思う。この『た』も水平線だけで処理したものとしてはほかに無いオリジナルだと自負している。確かに小ポイントにした場合に誤読性の心配はあるが、このほうがきれいである。横線モジュールの数はモリサワコンペではもう一本多かったが、これも整理しなおした。このことにより横書きの流れがスムーズになり、「ヘルべチカ」との調和にもつながっていると自分では思っている。
その2:文字エレメントを明瞭にし、ふところを大きく明るくするためにセパレート化すること。例として『さ、き、り』、これらは基本として教育漢字の処理に準じている。『な、ふ、む』は逆にくっつけて要素を減らしている。「ゴナ」の『さ』は試作段階では4画になっていた。『さ』をセパレート化し3画(トポロジー的には2要素)にしたゴシック体はそれまではなかったと思う。『な』も試作段階では4画になっていて従来のゴシック体依然としていた。それが商品化されたときには3画で、「タイポス」のように水平ラインが曲がって下に伸びるカタチになっていた。この処理でモダンさがすごく打ち出せている。この『な』の右側の曲げ処理はモダンではあるが気になる存在だった。「ニタラゴ」の『な』を見たときに一番ショックだったのはこの違和感のない処理である。私がまねたと思われるのは一番の懸念である。証明するものがないが「ニタラゴ」の存在を知る前から、『な』と『た』はこの形で定着していた。だからこそショックでくやしかったのである。『な』の右側の横線はその成り立ちの元の字『奈』からくるので左側の水平線より少し上に配置したり、逆に下に配置したり続き字にしたり、点状にしたりと種々ある。ほとんどの書体が『な』で分かるというのはここに特徴があるからである。ひらがなの中で一番苦労したのは『り』ある。通常の『り』」は続き字の1画が圧倒的に多い、しかも右側が低い、また他より圧倒的に長体である。それが一番気に入らず気になる点だった。左側の折り返してから切るもの、左右両方に切り返し、折り返しを設けたもの、バランスも気に入らず30回以上も描き換えた。ほとんどの文字は2~4回。多いものでも7~8回なのにものすごい時間を要した。でも一番のお気に入りかもしれない。もう一つ私の個人的見解から逆さ文字にしたときにも判別できることにこだわっている。ダ・ヴィンチじゃないのだから今時誰も鏡文字を気にすることなどないのだが、よくのぼり旗が風にたなびき表裏がひっくり返っているものや、最近はガラスウインドウに貼ってあるロゴを裏から見たときなどに全く別に読めてしまうのがいやなのだ。特に『さ』と『ち』を間違える。『D』と『G』、ロシア語の『R』の逆文字なども気なってしまう。大きな問題などないのだがそれがくやしかったりする。『さ』はこの意味でも3画にしてある。
その3:原則「はね」を無くしている。『え、き、け、こ、さ、に、は、ふ、ほ、ら、や』に関しては無くしている。従来のゴシック体でも無いものは多数存在している。「はね」は旧態らしさが色濃く出やすい。もともと筆文字だからだ。逆に『か、せ』は残した。空間の間合いや柔らかさを残したかった。特に『せ』は無いものに何度かトライしてみたが納得できずに残すことにした。
その4:筆運び上の「ため」をなるべく排した。特に『る、ろ、を、そ』に見られる筆の切り返しのところでの時間をかける所作がそのまま字に現れているのが気になり、重く感じていた。なるべくサラリと書いたイメージを表現したかったので手書き文字を参考にしている。
その5:『す、む』は書き文字のまるめかたを排し、不要なはみだしのかたちをなくしてスマートに見えるようにし、できる限りふところを大きくとった。学生時代に見た佐藤敬之助氏の書にあった『す』は、まるの下が極端に短かった。それが新鮮で今でも印象に残っている。そのイメージを意識しながら作成した。
その6:「NAX」特有の文字として『く』がある。この字はどれにも類似性を持たない文字なので逆に楽にできた。修正もなかったと思う。『く』は『こ』などと同様に右上に流れる処理とし、従来の縦書きを気にせず、横書きに特化した処理になっている。従来の規範からみると批判を受けるかもしれないが、これもほかに無いオリジナリティのある自慢の字である。