これはNAXシリーズの製作過程で考えた超極太フォントです。先に発表することにした。
1980年の写研の第6回石井賞創作タイプフェイスコンテストで、入選したものに結果としては似てしまった。制作過程では意識していなかったのだが、ひらがなができたところで棚の奥から引っ張り出してきて見た。(写真はそのときの発表冊子。ちなみにこのページの裏側は中村征宏氏です)なんと60%くらいはそっくりだなーと思った。それからカタカナ、アルファベット、数字などを作成し、試し組みをしたら、どうしてもひらがなが気に入らず、だいぶ丸みをおびた形状に変更することにした。最終的には納得しているのだが、ひらがなとカタカナでは全く違うものになってしまった。そもそもこのフォントは構成している線の太さを揃えるのではなく、文字間も含めてその隙間を一定のものにするというコンセプトで作ってあるので、その観点からいえば、昔作成し入選したもののほうが割り切りがよく完成度が高いと改めて思った。少し中途半端に思えてきた。
しかし今回のBB-NAXはそれなりに私の成長過程が反映されていると思う。若いころは何にでもキッチリ論理的に考え突き詰めるほうだった。人間丸くなったらおしまいだと豪語していたのに…でも経験が良い結果を生むこともあるのです。ニュートラルであることは現在では評価されにくくなっている。とにかく目立ち、とんがっていて極端にストレートに感情が表現されることが好まれている。フォントもしかり。そういう意味では誰がどこでというシチュエーションは、正直あまりイメージしていない。商品をつくる際にまず設定する大事な項目なのに。でもこういう人に使って欲しいというのははっきりしています。一般的に極太の字は強く訴え、けたたましくインパクトが必要な用途に使用されることが多いと思う。でもこのBB-NAXは叫んだり、怒ったり、政治思想のプロパガンダには間違っても使われないと思う。それがニュートラルということです。
ニュートラルということについて少しだけ語りたい。私がフォントの世界に魅了されたのは「ヘルべチカ」に出会ったときからだと思っている。1957年に活字のボールドが発表され、その後瞬く間に世界へと広まり、普及していった書体です。当初の名称は「ノイエ・ハース・グロテスク」、ハース社の新しいグロテスク書体という意味です。その後「ヘルべチカ」に変わり、ファミリーも増え、私がはじめてその存在を知ったのは1976年頃だと思うのだが、既に20年が経過し世界中で使われていて、スタンダードなものになっていた。2008年に50周年を記念し、「Helvetica forever」(日本語版は2009年)という本が出版され、その中に詳しい話や資料が公開されている。その冒頭の文章の一部がアルファベットの見本文です。そこにニュートラルという意味をたくみに表現しています。今準備中の「NAX」はその「ヘルべチカ」にインスパイアされてできた書体です。ニュートラルであることは私の中では大事な条件なのです。